『魔法使いの嫁』舞台化決定!スペシャル対談
原作 ヤマザキコレ × 脚本・演出 高羽彩
『魔法使いの嫁』の
新たな表現が生まれる期待感
──高羽さんはTVアニメ『魔法使いの嫁』で脚本を担当されていましたが、今回の舞台化はご自身の本来のフィールドでのお仕事ということになりますね。
高羽
ついに! という感じです(笑)。TVアニメ『魔法使いの嫁』を制作したWIT STUDIO代表の和田丈嗣さんには昔から目をかけて頂いていて、「いつか『まほよめ』を舞台化できたらいいな」位の話はしていたんですよ。そんなに具体的な話ではなかったんですが。
でも、去年(2018年)アニメの放送が終わったころ、舞台のプロデューサー MMJの東さんから「『魔法使いの嫁』を舞台化したい、脚本・演出は高羽彩で。」と言うお話を頂き即和田さんに相談、そこからはトントン拍子な感じで実現に至りました。もちろん私の本職は舞台の脚本、演出ですから嬉しいですし、光栄ですが、自分の書いたアニメ脚本を舞台化するのはとても緊張します。本当ですよ!
──ヤマザキさんはお芝居を作りたいというお話が来たとき、どう思われましたか。
ヤマザキ
そうですね……。まず私は、舞台とか演劇の世界にはまるで関わらずに生きてきたんですよ。せいぜい学園祭で演劇部の劇を観たくらいで。
高羽
北海道といえば、あのTEAM NACS(森崎博之、大泉洋、安田顕、戸次重幸、音尾琢真による演劇ユニット)発祥の地じゃないですか!
ヤマザキ
そう、TEAM NACSの舞台もこの間やっと観たレベルで。それも配信されていた映像を、東京の友達の家で観ました(笑)。
高羽
だいぶ、あべこべなことに(笑)。
ヤマザキ
それくらい、今までは馴染みがなかった媒体だったんです。
高羽
よくOKを出してくださいましたね……あれ、もしかしてまだ。
──了承されていない?(笑)
ヤマザキ
してますしてます(笑)。でも、そんな演劇に疎い私でも、また新たな『魔法使いの嫁』の表現が生まれるんじゃないかと、けっこうな期待感があって。
高羽
大丈夫ですか。和田さんたちに押し切られてないですか。
ヤマザキ
そんなことないですよ!(笑) アニメの時と同じく、ワクワクしているのが実際のところです。
高羽
がんばらせていただきます。
クローズアップされるヨセフ
チセとの関係もより深く描かれる
──ここで改めてお聞きしますが、高羽さんが感じる『魔法使いの嫁』の魅力とは。
高羽
やはり、ヤマザキさんの心の中にある世界観そのものです。描かれるものの質と量が生み出す説得力。それと、ある種ドライな人間関係の距離感、死生感なども挙げたいですね。ファンタジーな部分とドライな部分の相性というか、取り合わせが好きなんだと思います。で、この作品をどうやって演劇にするんだろうと思われる方も多いと思いますが、案外、舞台は「時間の跳躍」「空間の跳躍」といった、魔法的な表現をすることが得意なんですよ。
──たとえば舞台が暗転している間に場所が変わっていたり、回想の場面で客席に向いて語っていた人物が、現在の場面にスッと戻っていったりしますよね。
高羽
それを生の人間が演じているので、観る側もすんなり受け入れることができる。その一点だけでも、大きな「伝わる力」が生まれるメディアなんです。
ヤマザキ
聞いていると期待が膨らみます! 高羽さんはアニメ化の際、原作のごちゃごちゃした長いセリフを、雰囲気を保ちながらも、声の演技で伝わる形に整理してくださっていたので、本当にすごいなと思っていたんですよ。
──原作から変わっている部分も、すぐには気がつかないくらい馴染んでいましたね。
ヤマザキ
なので、舞台もいい形にまとめていただけるだろうと。
高羽
アニメ、がんばった甲斐がありました(笑)。
──ちなみに今回の舞台では、原作のどのあたりを描くのでしょうか。
高羽
じつは脚本はまだ完成していなくて(※2月時点)、現在スーパー悩み中なんです(笑)。でもアニメでやった時系列は全部入れたいと考えています。中でもチセとヨセフの関係については、舞台ならもっと濃く描ける余地があると感じたので、そこにスポットを当てて再構成していくのはどうかな、と。もちろん、全体としてはエリアスとチセの物語であることに変わりはないんですけど。
チセとヨセフは似たもの同士であり、何かひとつ間違っていたらチセがヨセフのようになっていてもおかしくないような、非常に因縁深い関係だと思うんです。
──そんなヨセフとの関係を描くことで、同時にチセのことも深く描いていくと。
ヤマザキ
チセは正解も不正解もわからないのに突き進んでしまうタイプですけど、漫画ではその思いに寄り添うような、共感できる描き方をしています。でも、こういう子は一歩間違えたら危うい。
──チセは我が身を顧みず、人やヒトのために動きましたが、ヨセフだって最初はカルタフィルスを救おうとしていたわけですしね。
ヤマザキ
だから、ある意味では反面教師ですね。あとヨセフには、チセに違う考えを提示する役割も持たせていました。彼女はあのままでいいわけではなくて、もっと成長していく必要があることをヨセフに提起してもらっています。
高羽
人の振り見て、じゃないですけど。
ヤマザキ
ヨセフには違った方面の正論を言わせていますね。とはいえ、彼は彼で別の病み方をしていますが。
高羽
ピカデリー・サーカスの場面(※原作9巻、第44・45篇/TVアニメ最終話)では、「ヨセフ、よく言ってくれた!」というカタルシスがありました(笑)。また、物語の大きな転換点だと感じたので、舞台ではそこを軸に届けたいなと。アニメではさらりと描かれたヨセフの過去も、もっと掘り下げたいです。
ヤマザキ
ヨセフとカルタフィルスの関係性や一種の結末とか掘り下げて頂ければなと。原作ではダイレクトな絵で表すより心象を描いたりして暗喩しているのですが……。
高羽
それをヤマザキ先生から聞いたときに、舞台ではぜひそこも描きたい! と思ったんですよ。
ヤマザキ
ただ、尺(上演時間)の問題も大変そうです。
高羽
実際、そこも苦心しているところです(笑)。登場人物の数も考えどころですね。
ヤマザキ
本当に困ったときは、私も一緒に考えます! じつは漫画でも、決まったページ数にお話をキリよく入れるのは本当に大変なので、削った物事もあって。それを演劇では描けるといいなと思っています。
想像力に訴える表現方法により
心の中に生まれる『魔法使いの嫁』の世界
──ところで、どのキャラクターがどんな姿で出てくるか、『魔法使いの嫁』ファンは大いに気になっていると思います。
高羽
舞台的な見栄えで考えると、オベロンとティターニアは出したいですね。絶対に素晴らしい場面にできるはずなので。あとはネヴィンやドラゴンの子たちも登場させたい。もちろん、ルツやシルキーなど、チセにとって身近な存在は確実に登場します(笑)。
──ヤマザキさんは舞台で観てみたいキャラは誰でしょうか。
ヤマザキ
誰だろう……リンデルかな。歌ってるところを見たいなと。
高羽
いいですね。舞台では歌ってすごく強い武器で、それだけでもお客さんを感動させることができるんです。理想としては、上演中に役者さんに実際に歌ってもらいたいですね。「この歌がリンデルの魔法なんだ」という説得力を強めた、新しい曲を用意したい気持ちもあります。
ヤマザキ
でも、私がそう言ってしまうことで、内容を縛りたい訳じゃないので! 最終的に誰が出ようとも、よりよい演劇である事を優先して頂きたいと思ってます。
高羽
……なんかすみません。本当に、ヤマザキ先生はいい人なんですよ。これを読んでいるすべての方に伝わってほしい(笑)。
ヤマザキ
まほよめの場合は原作に近づけるよりも、実際に存在していたらこうなるのではないかという方向性を重視して立ち上げるほうが適切じゃないかなと。たとえばチセの髪色ひとつ取っても、漫画表現と現実表現は違いますから、私の絵と違っていても、舞台らしく赤毛の表現になっていれば原作者として満足です。アニメの時もそうでしたが、媒体×作品という数式で、それぞれにおいて表現上、何が肝要かは変わると思うんです。2.5次元みたいな忠実に「再現する」方向性も好きなんですが、まほよめという作品でなら、実際性のようなものを重視して欲しいかなと思います。
──『魔法使いの嫁』の場合は、落ち着いた表現のほうが結果的に原作の雰囲気に近づく気もしますね。あとは、妖精や幽霊といった怪異、エリアスの骨頭、怪物化などがどのように表現されるかも楽しみです。
高羽
というか、気になりますよね(笑)。舞台の「ライオンキング」のように、役者の身体と衣装を融合させることで、「動物」や「人ではない存在」を表現する手法があるんですけど、今回はどのように表現するかは模索中です。
──キャラクターたちの表現には、照明や背景なども関わってきそうですね。
高羽
そこはどんなスタッフが揃うか、巡り合わせによって表現方法が決まる部分もあるんですね。演劇では、映画の衣装やセットのようにすべてを作り込んだりはせず、観客の想像力をいかに引き出すかがポイントになります。暗い舞台で、役者たちが星空を指差す演技をすれば、お客さんの心にも星の輝きが生まれる。そこが大きな魅力でもあります。
──暗いステージに古い列車の席をいくつか置くだけでも、ここは列車内、かなり昔らしい……と伝わるみたいな。
高羽
ですから、ものすごく作り込むというより、想像力を刺激し、邪魔しないような舞台装置を作っていこうと考えてます。『魔法使いの嫁』は本当にいろいろな場所に行くお話で、ロンドン、チセとエリアスのお家、妖精の国……これらすべてを作りこむのは難しいです。でも、上手い舞台装置を作れば、あとは演者とスタッフの腕で、舞台の上にロンドンの雑踏が立ち上がってくるわけです。
ちなみにネヴィンたちを登場させるなら、ドラゴンを飛ばす場面は絶対にやりたいと思っているんですよ。飛ばす方法もいろいろあるので、どんな風に実現できるか私も考えるのが楽しいです。
心の中にしか残らないものを
演者と一緒に共有しにいく体験
──演劇という媒体に馴染みがなく、敷居の高さを感じる『まほよめ』ファンの方もいると思いますが、どういうイメージを持って向き合うと楽しみやすいでしょうか。
高羽
テーマパークに行くようなイメージでしょうか。ディズニーランドや、USJのアトラクションを楽しみにいくような感じで、チセやエリアスたちを間近で見よう! と(笑)。あと、アニメ関連のイベントに遊びに行ったときに、監督や声優さんと一緒にエリアスやシルキーが舞台に立っていても、あまり違和感はないじゃないですか。
──むしろ嬉しいですよね。そういう感覚で接してもらえれば、と。原作やアニメでは味わえない、演劇『魔法使いの嫁』ならではの楽しさとは何でしょう。
高羽
映画やTVドラマのような映像と、演劇の違いは何かというと、映像は旅行番組で、演劇は旅だと思うんです。劇場に行って劇を観ることは、物語を楽しむだけでなく、体験そのものなんです。漫画やテレビでは第三者的に楽しんでいた『魔法使いの嫁』の物語を、自分もその物語の場で覗き見ているような体験ができるので、ぜひ劇場まで、旅に来て下さい。
ヤマザキ
「旅に来て下さい」……めちゃくちゃいい言葉ですね(笑)。私の原作はあくまで平面の絵と文ですから、一枚膜を隔ているようなもので。生の役者さんが演じる『魔法使いの嫁』は、良い意味でそれとはかなり違う感覚なのだろうと思います。
高羽
ちなみにエリアスを演じる神農直隆さんは、今演劇界でも注目を集めている、少し玄人好みな方なので、私自身も実際にお会いするのが楽しみなんですよ。かっこいい男の子を観たい方だけでなく、コアな演劇好きの方も満足させるような舞台にしたいと意気込んでいます。
チセ役の工藤遥さんとも早く間近で接してみたいですね(注)。主役というのは華があるかどうかも重要なので、かつてモーニング娘。のセンターとして注目を集めてきた彼女は、やはりそこも違うんじゃないかと期待しています。
(注)この対談を行った時点ではまだ二人は会っていません。
ヤマザキ
これは聞いた話なんですけど、舞台は同じ演者、同じ演目でも、日によって内容が変わるから何度も観に行くそうですね。
高羽
良くも悪くもぶっつけ本番なんですよ。どんなに稽古を積み重ねようと、どこか刹那的というか……。だからこそ、その日その日で最高のものを出すために、みんなが自分を厳しく律して取り組むんです。
なのに千秋楽が終わったら、跡形もなく消えてしまう。映像に形を変えて残ったりはしますが、「演劇そのもの」はどこにも残らない。演者と客が共有した感動は、記憶の中にしかないんです。
ヤマザキ
観ている側も作品作りに加わって、ともに同じ夢をみるような。それはやはり実際に観てこそ得られる体験、ですね。私自身、劇場に旅に行くのがとても楽しみになってきました。皆さんもぜひ、私と一緒に行きましょう!
高羽
先生、ぜひチケットも予約して、二度三度と来てくださいね(笑)。
取材・構成/高橋祐介